toggle
2020-01-19

5. 風の惑星

 

風の惑星  詞・曲 わららべ尚道

風が呼んでいる ブナの森の王国に
風が染まってゆく 北の森の青さに
はるか海を超えて 鳥が風をとらえる
この町に シベリアからの季節の使者が訪れた
水辺の日だまりに 翼をいこえる

風が背をなでてく サバンナのシマ馬たちの
風が巻き上げてく サハラの旅の足跡
はるか山を超えて 鳥が風にだかれる
ヒマラヤの峰を 見下ろして
旅する鶴の群れよ
ブータンアゲハが ひらひら 風に舞う

風がかなでてゆく アマゾンの森のシンフォニー
風が運んでゆく 生まれたばかりの風を
はるか海を越えて 鳥が風をとらえる
この町に マラッカからの季節の使者が訪れた
我が家の軒先に 風の便りを聞く

※解説
シベリアからやって来る白鳥は、ニュースや映画などでは、しばしば冬の到来を告げる冬の使者と呼ばれた。
アネハ鶴は、毎年モンゴルからインドに、ヒマラヤの山々を越えて旅をする、体長90cmほどの小柄な鶴で、苛烈な気候の中で命を落とす者も少なくないという。
春を告げる燕は、東南アジアのマラッカ付近から、夏を過ごすために日本にやってくる

 

 

私たち日本人は 暮らしの中で風にさまざまな名前を付けて風と向き合ってきました。

東風(こち)  春一番   山瀬風(やませ)   黒南風(くろはえ)

雁渡 (かりわたし)木枯し   虎落笛(もがりぶえ)など

バラエティに富んだ名前が付いています。

この中にはあまりなじみのないものもあるかもしれません。

例えば雁渡しとは何でしょう。

初秋から中秋に吹く風、このころ雁が渡ってくるので
雁渡しと呼ばれるようになったといいます。

また、風は古来から詩人や歌詠み 俳人などの文学や民謡 歌謡曲 ポップスなどの歌の世界にも
インスピレーションを与え続けて来ました。

その一方で風はこの星に息づく 生き物にとって必須のものです。

植物の葉の裏側には気孔という口がいくつもあり、ここでガス交換をしています。

通常の呼吸のほかに光合成に必要な炭酸ガスを取り込み 光合成によって生じた酸素を輩出しています。
このとき空気の交換を手伝っているのが風です。もし風が全く無くなってしまったら
植物はうまく空気を取り込むことができなくなるそうです。

植物が育たなければそれを食べて生きていく動物たちも、そして私たち人間も生きていくことはできません。

そういう意味でもこの地球は風の惑星なのです。

ところで風そのものは目には見えないものです。
森や木立のそよぎや雲の流れなどで確認できますが、この歌では風を体現してくれる生き物として鳥を取り上げています。

直接鳥の名前が登場するのは二番だけですが、歌詞をたどっていけば鳥の姿が見えてきます。
一番の歌詞には「この町にシベリアからの季節の使者が訪れた」とありますが、これはもちろん白鳥のことです。
昔よく見たニュース映画などで冬の到来を告げる風景としてよく使われた表現でした。

二番に登場する鶴はアネハヅルと呼ばれる珍しい鳥です。
アネハ鶴は 毎年 モンゴルからインドに ヒマラヤの山々を越えて旅をする鶴です。
体長90センチほどの小柄な鶴で、苛烈な気候の中でいのちを落とすものも少なくないといいます。
NHK-BSの「ワイルドライフ」という番組で、このアネハヅルがヒマラヤの峰を超えて行く旅の様子を見ましたが、強い印象を受けました。
このときの感動がこの「風の惑星」という作品を作る大きな力となっています。

三番に出てくる鳥は燕です。
初夏に来て秋に去る燕は、東南アジアのマラッカ付近から夏を過ごすために日本にやってきます。

ところでこの三番には「風がかなでていく。アマゾンの森のシンフォニー」という歌詞があります。
これは単なる比喩ではありません。

オーケストラではバイオリンやフルートなどの高い音を出す楽器からコントラバスやチューバなど低音楽器があり、
これらには、人間の可聴域を超えた高い波長のものから低いものまでの幅広い波長を含んでいます。
オーケストラはこれらの楽器が協調して豊かなハーモニーを奏でているのです。

アマゾンの森の音はとても豊かです。
風邪でゆらぐ森の音、動物たちの鳴き声、川や水辺の音、これらの音が持つ波長の幅広さはオーケストラに匹敵するといわれています。

そして地球の肺とも呼ばれるこのアマゾンで生まれたあたらしい酸素を地球上に届けてくれるのも風なのです。

関連記事