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2020-01-19

3. 甘夏ゼリー

 

あなたは海の見える小高い丘にある三原市のいい別荘であなたのいい人、
それは恋人かもしれないし 愛する家族なのかもしれませんが、
とにかくあなたのいい人と二人であなたのいい人が作ってくれた甘夏ゼリーをいただいています。
すると大きなマドの端の風景に陰が差して、山の方から白い雨脚がうみに向かって降りてくるのが見えます。
夕立です。
こんなシチュエーションを思い浮かべて聞いていただければ最高です。

 

 

甘夏ゼリー  詞・曲 わららべ尚道

あなたが作った 甘夏ゼリー
のどを青く 風が吹き抜ける
鴨川育ち まる顔 ジューシー
ホンノリ ひんやり ほどよいよね
何か 物足りないよな気分を 引き裂いて
夕立ちが のぼせた夢を冷やして
山を白く染めて
やがてなぎさまで降りるよ

あなたが作った 甘夏ゼリー
胸を青く 風が染めてゆく
ゼラチンの海に 沈みかけた夕陽を
銀色のスプーンが すくうよ
風のように 行き過ぎる
暮らしを 引き留めて 夕立ちが
見慣れた景色 洗って
波立つ海に
レースのカーテン下ろすよ

 

 

 

この歌が生まれたきっかけは一つの和音からでした。
ギターで弾く E6(イーシックス)と呼ばれる和音がとても魅力的に感じられて、
ここからなにか魅惑的な世界が始まりそうな気持にさせてくれる響きなのでした。
この和音を奏でながら思いつくままに浮かんできた旋律がこの歌になりました。

歌詞の中に出てくる鴨川という地名は千葉県の南部にある鴨川市のことです。

温暖な気候を生かした夏みかんの栽培が盛んで、母親の友人が鴨川に住んでいたことから
毎年ダンボールひと箱の夏みかんが送られてきました。
しかし夏みかんでは歌詞として置いたときに座りが悪いので夏みかんゼリーではなく、甘夏ゼリーに替えました。
創作というのはこういうことがしばしば起きます。
体験をそのまま利用するのではなくすこし加工して用いたりします。
有名な話に、歌人の俵(たわら) 万智(まち)さんの短歌で「サラダ記念日」という作品があります。

学生時代、彼のところで初めて作った料理がサラダだったので今日はサラダ記念日という歌ですが。
実際に作ったのは鶏のから揚げだとか。
なるほど、からあげ記念日ではサラダということばの持つ透明感がありませんね。

こんなわけで甘夏ゼリーとなりました。
でもこれもまた単なる果実を指していると決めつけるのは早計かもしれません。
例えばそこには女性への比喩が織り込まれているかもしれないという様な聞き方もありだと思います。

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