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2020-12-20

超短編 五十四字の物語

イルミネーションの絵

 

始めに

私が超短編 54字の物語というものを知ったのは 今年の10月ごろ NHKの朝のニュースで最近流行っているものとして紹介されているのを見たからでした。
54字というのはちょうどスマホの画面に収まる字数なんだとか。
そのときはへえという感じで見ていたのですが、それから数日後にサピエの図書館の新刊案内で「超短編小説で読む いきもの図鑑  54字の物語 ZOO | 氏田 雄介編著」という本があったので それを手に取ったのでした。
詩というよりはショートショートをさらに短くしたような感じだという印象を受けました。
それでわたしもわたしなりの54字の物語を書いてみることにしたのでした。
(12月 2020)

 

① 招待状

動物たちの桜の会には招かれなかった
でも植物たちのもみじの会の招待状が届く
そうだったのかとかかしは思った

解説
かかしは人の姿をしているので自分も人間の仲間、少なくともどうぶつの仲間だと おもいこんでいたのかもしれませんね。でも田んぼの真ん中で その場をうごくこともなく立ち続けているのは植物の様でもあります。

 

② 青い水

青色が必要なので青い海の水を組んできたよ
でもと友人
おかげでみごとな青空を描くことができたよと画家は微笑した

解説
空が青いのはもちろん空気が青に染まっているからではなく光の屈折によるものです。
海が青く見えるのも同様のこと。
画家はそれを描くことを海の水から学んだのかもしれません。

 

③ クリスマスがやって来る

クリスマスが近づくと米国から日本へ密入国者が急増するらしい
ここは治安もよく 火刑もないから
KFCには感謝です

解説
KFCは ケンタッキーフライドチキンの略称、米国ではそう呼ばれる。
べいこくでは日本の労働感謝の日にあたるサンクスギビングデイやクリスマスでは七面鳥を食べるのが一般的なのだという。すべては米国にならう日本はこればかりは定着しなかった。
代わりにケンタッキーフライドチキンを食べる家もあると聞くと米国人は驚くらしい。
七面鳥の日本への密入国に手を貸しているのはKFCかもしれません。

 

④ 通過音

夜明け前に 町の国道から
戦車のような走行音と電子音が聞こえて
やがて遠ざかって行った
町で聴いたのはぼくだけだった

解説
これは2020年 十一月 某日の夜明けに私が実際に聞いた経験談です。
みなさんの中で同様の経験をしたことがあるという人がいましたら こちら「季節外れの青蛙合唱段」までご一報ください。
お待ちしております。

 

⑤ 象の名前

私は何万年も生きて来たと言われていると象が言った
あなたの名前はなうまん象ですと困ったように記者。
象は沈黙した

 

⑥ 億万長者のペット

金持ちだから象を買っているわけではありません
象を養うために働いてきたのです
それが私のおおいなる生きがいでした。

 

⑦ 気性予報

その気性予報官の副業は像使いだった
しかし彼の像が死ぬと 彼は気性の仕事も失った
実は象こそが気性予報官だったのだ

解説
インドネシアのスマトラ大地震の際 スリランカにいた象たちは津波が押し寄せる一時間ほど前に それを予感していたかのように丘へ避難したという。
これは象の持っている感覚、特に聴覚の鋭敏さよるものではないかといわれている。
象は巨大な足で地面を踏みしめながら歩いている。このときに生じる音は地面を伝わり 遠くはなれた象たちににも伝わっていく。
象はその巨大なからだそのものが骨伝導として 足からの聴覚的振動を増幅して聞くことができるのだという。
こうして遠くはなれた津波の存在も認知できたのではといわれている。

 

⑧ 資本論

マルクスの資本論が日本ファンタジーノベル大賞を受賞した
ようやく理解されましたとマルクスは宮沢賢治に電報した

解説
ファックスという道具の不思議さは書いているこちらの身体はそのままに、書いたものだけが遠くへ送り届けることができることだ。
そんなのあたりまえでしょうと言わないでほしい。
その不思議さを充分味わって欲しい。
身体の運動は労働力という抽象化された商品となり貨幣に交換される。
その貨幣は電子的情報に、やがて電子の霧の中に拡散され資本のブラックホールへと消えてゆくのだ。
もはやそれがどの身体に由来するものかなどわからなくなっている。
おお、私たちの営むこの世界はなんというファンタジーなのだろう。

 

⑨ 逢引

女、 私 寒さには強い方なんです
男、それなら、シベリアでも暮らせそうだ
女、いえ、あばしりまでが 北限ですわ

解説
付き合っていると思っていた男はどうやらロシアのKGB秘密警察だったようです。女性も男のシベリアということばにはっとしたのでしょう。
シベリアといえば思想犯を収容する刑務所があり、かの文豪ドフトエフスキーも収監されたことは有名です。

 

⑩ 無人島

無人島に漂着したつもりが、背中に視線を
こんにちは先住民のロビんソンです
無人島オンラインツアーでした

解説
無人島 そしてロビンソンといえば 1719年に刊行された英国のダニエル・デォーの小説 ロビンソン漂流記ですね。
載っていた船が難破してひとりだけ助かったロビンソンが漂着した島で英国線に助けられるまで過ごした二十八年間のサバイバルの物語でした。
さてこのロビンソンはどうしたのでしょう。
離れていても人と交流できる方法はないか 孤独をいやすためにロビンソンが考えたのが無人島オンラインツアーということでした。

 

⑪ ねじ

あのころの僕ときたら ねじが 一本 ゆるんていたんだ
おとなになれないようにね
そういえば 引き出しの 錆びたドライバーが

解説
ねじとか ドライバーとか まるで木製の人形のようです。
人形といえばピノキオですね。
そうなんですね。
ピノキオというのはつまり少年というもののある種の典型を表現していたのですね。

 

⑫ 先生の奥さん

からからになっているかずぶぬれになっているかじゃないとだめなんだ
奥さんが心配してくれるのは ぼくは洗濯物か?

解説
年上の女性から心配してもらうには どうあればよいのか。
少年の微妙なこころの揺れのようなものが感じられます。

 

⑬ 毛布

昔 ナバホのインデアンから 買った毛布なんだ
明日の朝 ひざが治っていますように
山犬のように 賢く走れますように

解説
ナバホのインデアンから買った毛布と聞くと 何か神秘的なものを想像させるところがありますね。

 

⑭ 半ズボン

三年前 突然逝ってしまった娘
絵具で汚れた 半ズボンを洗う
小六のあの子が 娘に だんだん似てくるのを見るのが楽しい

解説
NHKのドキュメント72 住宅街のクリーニング天からのスケッチでした。
孫娘が絵具で汚してしまった お気に入りの半ズボンをどうにかならないか クリーニング店に持ち込んたのは 彼女の祖母でした。

 

⑮ 遠吠え

腹の虫は 狼の遠吠えのようだった
情けないものを聞かせてしまった
そんなことはない、おれなんか狼の腹の中で暮らしてるんだぜ

解説
あなたの情けない腹の虫を聞いたのは 狼の腹の寄生虫だったようです

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