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2021-03-27

今月の俳句「二月」2021

カレーの絵

朝カレーの グラスの水や 春の雷(らい)

昨夜の夕食はヘルパーさんの手によるカレーだった。
朝の分も別にカップに入れてある。
今朝はカレーでよいと思うと気分も明るくなる。
朝カレ、朝カレーと声に出す。
深皿のご飯とカレー、たまたまあった福神漬けを出して グラスに水を入れて準備完了。
そのとき空がこもったような低いひびきを立てた。
飛行機の音かと思ったが よく聞いてみると遠雷のようだった。

 

 

図書室の 一瞬バレンタインの日

初めてバレンタインのチョコレートをもらったのはいつだったか。
盲学校の寄宿舎の夜の図書室だった。点字の本を開いて読んでいると、それまで一度も話したことのない女子が近づいてきて、いきなりチョコレイトを渡された。
「これどうぞ。」
「あ、ありがとう。」
そのあとは一言も交わす間もなく彼女はあっという間にその場を立ち去っていた。
それは一瞬の 出来事だった。

 

 

ガラス戸に 春の光の 車行く

籐椅子に座って通りの方を 見るともなくながめていると ガラス戸をまばゆい光が通り過ぎて行った。
車の窓が春の光に反射していたのだろう。
きらりとしたものが飛び去った。
それは まるで春の光のかたまりが通り過ぎて行ったように感じられた。

 

 

車から 待ち人の声 春障子

葉ボタンの 鉢にぬっと ヒヤシンス

年末に 葉ボタンの苗を鉢に植えようとして 土をかき回していた時に 小さな球根らしきものが出て来た。
正体不明の球根だったが 捨てるのも惜しく 葉ボタンの苗の合間にい埋めておいたのが どうやらヒヤシンスだったようだ。

 

 

凸凹の 歩道の川辺 初桜

初桜 その都市最初に咲いた 桜のこと。
咲き始めたばかりの一輪二輪の花と出会ったことの喜びがこめられている。

 

 

ジンチョウの 香(こう)に誘われ 奥へ奥へ

じんちょうは ジンチョウげのこと、
ジンチョウゲ(沈丁花)とは、ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属の常緑低木。
チンチョウゲとも言われる。
沈丁花(ジンチョウゲ)は香り高い花を咲かせる春の代表的な樹木で、春の沈丁花、
夏の梔子、そして秋の金木犀を合わせて三大香木と称する。
ジンチョウゲ科の常緑低木で、春先に外側が桃色で内側が白色の小さな花が塊になって
枝先に咲く。

 

 

風待ちの 北前船か 能登の春

北前船(きたまえぶね)は江戸事態中期から明治にかけて 大阪と北海道を結ぶ開運の
大動脈であった。
海の荒れる冬を除いて船を出す。帆船なので 日本かいの天然の良港に立ち寄りながら
順風を待った。
立ち寄った港では商品を売り買いして莫大な富を
築いたという。
鉄道の発達に伴って 北前船は衰退していったが、往時をしのぶように 今でも富豪村と呼ばれた町の建物や港の風景が残されている。

 

 

ふき味噌や 小瓶の顔の モアイ像

ふき味噌は細かく刻んだ フキノトウをすりつぶし 味噌 砂糖 味醂を加えて 火にかけ練り上げたもの。
お土産にふき味噌の小瓶をいただいた。薬の小瓶のように手の中に納まるほどの小さなものだったが瓶の表面に立体的なデザインが。
なにやらモアイ象を思わせるデザインだった。
捨てられずにしばらくとっておいたがいつのまにかどこかに消えてしまった。

 

 

春の宵 潮騒満ちて 舟となる

春の夜のうみべの家は風の強い日が続く。
嵐ほどではないが 窓の外を海から陸へと風が吹き続け波の音がすっぽりと家を包んでいる。
ときどき二階の部屋が風でゆすられている。
なにか この家そのものが船となって動き始めそうな感じだ。
このまま大海へ 出航してしまいそうな 雰囲気になる。

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