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2020-03-04

今月の俳句「二月」2020

猫の絵

川沿いに 山寺あたり 桜東風(さくらこち)

東風(こち)分けて 海のほとりの 風と会う

東風(こち) 東から吹く やや荒い 早春の風のこと
今年は暖冬とあって二月の二〇日ごろには御宿町では多く植えられている河津さくらはどこも満開だった。

 

ソプラノがいて アルトもおり うかれ猫

恋猫や いつかメモリー 歌う日も

恋猫 うかれ猫は 早春の発情期を迎えた猫のことをいう。
メモリーはミュージカル キャッツで歌われる有名な歌曲、若いころの魅力にあふれた時代が過ぎて、だれにもかえり見られなくなった一匹のネコ。
彼女が孤独と深い闇の向こうにかすかに見える夜明けのひかりを思いせつせつと歌い上げるアリアである。

 

バレンタイン 金貨のチョコで 買へるもの

いただけば うぐいす餅の 黄にまみれ

風舞って 笑いさざめく 春障子

そろり開く(あく) 宿の二階の 春障子

春障子 はるしょうじ 暖かくなって周りが春めいてくる頃の障子をいう。
冬の障子よりも明るい雰囲気がある。

 

初めての 盲学校といふ 雪解道(ゆきげみち)

残雪や スクールバスの 子らとなる

EテレのNHK俳句で 雪解(ゆきげ)の俳句を紹介していたのを見ながら自分にとっての雪解(ゆきげ)の風景は何だろうと思うとき、浮かんでくるのが、初めて訪ねた盲学校のときのものだった。
千葉県四街道市にあるその学校を訪ねたのは地元の高校をもう少しで卒業という二月のころだった。空気は冷たく前日に降った春の雪が校庭や未舗装の歩道にまばらに残っていてところどころ溶けかけたところは泥んこになっていた。
希望とも失望とも言い難いあいまいな気持ちで父親に付き添われて訪ねたのだった。
そこで点字の道具とテキストをもらって春休みのあいだ点字の練習をした。
書く方はローマ字と規則が似ているのですぐにのみこめたが、たいへんだったのは指で読むことだった。左手の人差し指を訥々とした文字に触れてみるも全くわからなかった。「こんなの絶対 無理」と思ったことを憶えている。
それでも文字と文字の会田をあけて読むことから始めて、しだいに文字と文字の距離をつめて読む練習をした。その結果四月の入学式のときにはなんとか読み書きできるようになっていた。
六月の中間テストのときは点字の問題用紙を読み、点字で答えを書いた。
このとき思ったことは最後まで答えを書くことができたという満足感だった。
というのも高校時代には視力が落ちてきたせいで、問題用紙を読むのに時間がかかり、たいていは七割ぐらいでタイムアップとなってしまったからだった。
知っていることをすべて書くことができた。それは一つの喜びだった。

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